西洋では、ルネサンス以降、宗教画における母子像に象徴されるように、母子をモチーフとした芸術作品は、時代を経て、さまざまな形で描かれてきました。19世紀後半、印象派の時代になってからは、身近な日常生活の中で捉えた母や子の情景が描かれるようになります。日本でも、江戸時代の浮世絵版画などには、さまざまな庶民の姿が描かれ、明治時代以降も日本画や洋画において、母や子をテーマにした名作が生まれました。また、写真の世界でも根強い人気を博し、このテーマに多くの作家が取り組みました。
母の子どもに対する愛情は、古今東西を問わず、美しくかつ妥協のないものです。
また、子どものもつ純粋な好奇心や可能性に富んだ生命力もまた、みずみずしい輝きに満ちたものです。今日まで「母」や「子ども」が、芸術作品として姿を変え、残されてきたのも、その “妥協のない美しさ” に理由があるのかもしれません。
本展では、国内約40ヶ所の美術館、ご所蔵家からお借りした作品に、東京富士美術館所蔵の作品を加えた約140点の作品により、母と子の美術の世界を紹介いたします。16世紀から20世紀にかけての国内外約90作家による、油彩画・日本画・彫刻・版画・写真など、さまざまな手法による、表情豊かな「母たち」「子どもたち」が一堂に会します。どうぞご期待ください。
「Happy Mother, Happy Children」出品作品紹介

ジャン=オノレ・フラゴナ-ル
«豊穣な恵み» 1773年
油彩・カンヴァス
東京富士美術館蔵
|

エルネスト・ミッシェル
«ハッピーマザー» 1886年
油彩・カンヴァス
創価学会蔵
|

|
モーリス・ドニ
«雌鶏と少女» 1890年
油彩・カンヴァス
国立西洋美術館蔵
|
19世紀に活躍した「ナビ派」を代表する一人。この作品は作者が20歳のころ、初めてサロンに入選した1890年に制作された作品。あどけない少女がにわとりとたわむれる姿がほのぼのと描かれている。縦長の画面や、縦に入ったサインには日本美術の影響もみられる。

ピエール・オーギュスト・ルノワール
«ジャン・ルノワールと一緒のガブリエルと少女» 1895-96年
油彩・カンヴァス
村内美術館蔵
|
印象派を代表する作家ルノワールの傑作。ここに描かれているのは、もうすぐ2歳になるルノワールの次男ジャンと、妻の従姉妹にあたるガブリエル、そして近所の少女である。ルノワールは、こうような幸福な母性的世界を常に日常から見いだし、その美しさを描きとどめようとしていたことがうかがえる。リンゴに手を伸ばすジャンのしぐさから、子どものもつ純粋な無垢な好奇心がよく伝わってくる。

メアリー・カサット
«モレル・ダルル―伯爵夫人と息子» 1906年頃
パステル・カンヴァス
東京富士美術館蔵
|

岸田劉生
«麗子坐像» 1919年
油彩・カンヴァス
ポーラ美術館蔵
|
大正時代における日本洋画界をリードした中心的人物。武者小路実篤をはじめ、文化人との交友も広かった。1918年から連作で描かれた愛娘「麗子」を描いた作品は、重要文化財にも指定されている。本作品は娘に対する愛情をこめて、約2ヵ月かけて描かれた。

小磯良平
«家族» 1958年
油彩・カンヴァス
神戸市立小磯記念美術館蔵
|

奈良美智
«So far apart» 1996年
アクリル・コットン
青森県立美術館蔵
©Yoshitomo Nara
|
現在、日本が世界に誇るコンテンポラリーアーティスト(現代美術作家)の一人。さまざまな表情の子どもや犬を、ポップ調の漫画的な表現で描いた作品は、現代社会に生きる人々の心に不思議なやすらぎを与え、その人気は世界的な広がりをみせている。

小倉遊亀
«径(こみち)» 1966年
紙本・着色 額装
東京藝術大学大学美術館蔵
|
女性としては上村松園についで2人目となる文化勲章を受章するなど、昭和を代表する女性日本画家の一人。厳しい自己研鑽の中で明るい色調と構成力のある名品を次々と発表。この作品は作者が71歳のころ制作したもの。作者は子供の“余念なくひたすらな気持ち”と、師匠に一生懸命歩調を合わせようとする自分とを重ねあわせて描いたという。

杉山寧
«暦» 1972年
麻布・着色 額装
日本芸術院蔵
|
昭和時代を代表する日本画家の一人。この作品のモデルは作者自身の長男の妻子とされる。親から子へと引き継がれていく生命の連続に対する深い感動が描かれている。この作品の2年後、文化功労者となり、文化勲章も受章している。

コーネル・キャパ
«ひ孫と100歳の誕生日を祝うアメリカのフォークアート画家グランマ・モーゼス» 1960年
ゼラチンシルバープリント
東京富士美術館蔵
©Cornell Capa
|
|